Bessie Smith(ベッシー・スミス)

”ブルースの女帝” ベッシー・スミス(Bessie Smith)

ベッシー・スミスは1894年、テネシー州のチャタヌーガで生まれた。チャタヌーガはちょうどナッシュビルとアトランタの中間くらいに位置し、アラバマ州にもほど近い場所だ。いわゆるコテコテの南部と言えるだろう。生まれた時からいろんなルーツミュージックを聴きながら育ったことは簡単に想像できる。

成人期には182cmで90kgとほぼ巨体であったようで、その体から出される声量は建造物を揺るがすほどと言われた。

10代にはヴォードヴィル・ダンサーなどを始め、そんな折、15歳の時にマ・レイニーと出会う。ベッシーはブルースを歌っていたマ・レイニーの影響を受けて、それからしばらく前座をやったりした。

1923年、ベッシーはコロンビアレコードからスカウトされ、ニューヨークで初のレコーディングを行った。シングルカットされた「Down Hearted Blues」がヒットして、一気に人気が出たようである。

その後1933年までの間に150曲以上のレコーディングを行い、その巨体から出されるパワフルな声と、繊細な感情を惜しみなく出せる唱法に多くのミュージシャンも影響を受けた。ビリー・ホリデイ、マヘリア・ジャクソン、ダイナ・ワシントン、ジャニス・ジョプリン、ノラ・ジョーンズや日本の浅川マキなどその後の偉大なシンガーたちの心に刻んだ。

ベッシーは他にもサッチモなどたくさんのジャズ・ミュージシャンとも交流があり、一緒に共演もした。

いつしか”ブルースの女帝”と呼ばれるようになったが、1929年の世界恐慌で人気に陰りが出始め、なんとかジャズのスイング的なアプローチで再起を計ろうとしていたその矢先にミシシッピ州のクラークスデールの北数キロにあるコアホマで交通事故に遭う。

 

リヴァーサイド・ホテル(Riverside Hotel)

一命は取りとめたが、最終的にはクラークスデールの黒人専用の病院で息を引き取った。享年43歳だった。その病院は1944年頃にZ.L.ヒルという人物によって「リバーサイド・ホテル」というホテルに生まれ変わり、今も営業している。なんとベッシー・スミスが亡くなったという部屋が今も残っている。

(出典:Tripadviser(トリップアドバイザー)

 

映画:ブルースの女王

そして2015年には、ベッシー・スミスの半生を描いたTV映画である「ベッシー(邦題:ブルースの女王)」がクイーン・ラティファの主演で公開された。

詳細はこちら → ブルースの女王

 

 

曲紹介

ベッシー・スミスの曲は有名なものや重要なものが結構多く、ランク付けするにも結構迷ってしまう。時代的なこともあってスタンダード曲もあるし、後々にたくさんカヴァーされるものもあって、なかなかどれも落とせないのだ。おそらくクラシック・ブルースの中では最も重要ではないだろうかと思う。

まあそんな条件ではあるが、なんとかまとめてみた。

代表曲ランキング

14位:Devil’s Gonna Get You(1928年)

この頃(1928年)のベッシー・スミスはかなり自分の歌声にも自信が出てきたのだろう。かなり力強い少しドスの効いたような歌い方になっている。バックのピアノ、クラリネット、サックスの音が控えめに感じてしまう。

この曲は他にあんまりカバーもされておらず、ベッシーのバージョンが最も有名である。個人的に結構好きな曲ではある。

重要度 3.0
知名度 2.5
ルーツ度 3.0
好み 3.5
総合 3.0

 

 

13位:Me And My Gin(1928年)

ベッシー・スミスのヴォーカルとピアノとトロンボーンのトリオという組合わせのブルース。この曲を聴くと本当にベッシーの野太い迫力のある声を聞くことができる。トロンボーンの低音と呼応するかのような恐いくらいの地声ブルースだ。

別の曲で「Gin House Blues」という有名な曲とよく混同されるが、全く別の曲だ。

重要度 3.0
知名度 3.5
ルーツ度 3.5
好み 3.0
総合 3.0

 

 

12位:A Good Man is Hard to Find(1927年)

アフリカ系アメリカ人のソングライターであるエディ・グリーンによって書かれたラブソングで、ブルースのスタンダードとなった有名な曲。

ピアノとギターをバックにベッシー節が炸裂している。相変わらずの図太い低音でブルースを歌うベッシー。後にマヘリア・ジャクソンやジャニス・ジョプリンが強く影響を受けたのがよくわかる一曲だ。

重要度 3.5
知名度 4.0
ルーツ度 3.5
好み 3.0
総合 3.5

 

 

11位:Young Woman’s Blues(1926年)

この曲はフレッチャー・ヘンダーソンがピアノを弾いていて、コルネットやクラリネットなども入っている少しジャジーなクラシック・ブルースである。

低く太い声でこれくらいにゆっくりと歌われると迫力があるが、しかしそれにしてもベッシーのヴォーカルが完全に他の楽器をリードしているようで、歌に対する自信というか確信みたいなものを感じて凄い。

重要度 3.5
知名度 3.5
ルーツ度 3.5
好み 3.0
総合 3.5

 

 

10位:Empty Bed Blues(1928年)

この「Empty Bed Blues」はpart1とpart2の2テイクがあり、この動画では両方をつなげて編集してくれているので、全部で6分を超す長さになっている。3分を過ぎた辺りでブレイクがあるのでわかりやすい。

「今朝とてもひどい頭痛で起きた」なんて出だしはモロにブルースだし、曲自体もかなりねっとりとしたスローブルースに仕上がっている。また、この曲の中でトロンボーンを吹いているのはチャーリー・グリーンでピアノはポーター・グレンジャーという素晴らしいメンツだ。

重要度 3.0
知名度 3.5
ルーツ度 4.0
好み 3.0
総合 3.5

 

 

9位:After You´ve Gone(1927年)

日本語で「君去りしのち」という題で有名なこの曲はブルース、ジャズ、ポップスなどあらゆるジャンルでカバーされたアメリカのラブソングである。実はベッシーより早く白人のマリオン・ハリスが1918年に吹き込んでいるポップスソングでもある。

この曲でのベッシー・スミスはとてもパワフルに歌っていて迫力があるので、ぜひ堪能してもらいたい。ちょっと未練たらしい歌詞だが、そんな人間の本性が伝わってくる曲。

重要度 3.5
知名度 4.0
ルーツ度 3.5
好み 3.0
総合 3.5

 

 

8位:Baby Won’t You Please Come Home(1923年)

この曲も1923年の初回録音時のものでピアノはクラレンス・ウィリアムズが弾いている。1919年にチャールズ・ウォーフィールドというジャズ系の作曲家が書いたブルース曲で、かなり多くのジャズミュージシャンにカバーされているスタンダード。

クラシック・ブルースは録音された時期がかなり早いが、ジャズっぽい曲が多いのも特徴だ。特にこの曲のようなピアノ伴奏となると、時代的にもラグ・タイム〜ジャズの要素が入ってくるものが多い。

ベッシー・スミスのこのバージョンが最初のヒットで、チャートで最高6位までいっている。とても力強く伸びのある歌い方はまさに後のビリー・ホリデイであり、ジャニス・ジョプリンのようだ。

重要度 3.5
知名度 4.0
ルーツ度 3.5
好み 3.5
総合 3.5

 

 

7位:Gimme A Pigfoot(1933年)

ウェズリー・ウィルソンとクート・グラントという音楽夫婦が1933年に作曲した。すぐさまベッシーがリリースすることで有名になった。ジャズのようなスイングの曲であるが、ベッシーのどっしりとした声がスロー・ブルースのような雰囲気を醸し出していて相変わらず迫力がある。

やはりベッシー・スミスはその大きな体で腹の底から感情を出していたのだろう。他のシンガーを寄せ付けないほどに圧倒的な声量であった。早くに不慮の事故で死んでしまったのは残念で仕方がない。

重要度 3.0
知名度 3.5
ルーツ度 3.5
好み 3.5
総合 3.5

 

 

6位:Tain’t Nobody Business If I Do(1923年)

有名なブルース・スタンダードナンバー。サラ・マーティンやアルバータ・ハンターなど他の女性クラシック・ブルースシンガーたちも録音しているが、ヴォードヴィルにその前身を持つベッシー・スミスは本当にこういう曲を歌わせたら天下一品である。

同性愛者だったと言われているベッシー。時代が彼女にとっては辛かったのかもしれないが、「あんたの知ったこっちゃないわよ」と強く歌う彼女のやってられない感が、100年近く経った今となっても心に響いてくる。好きな一曲だ。

重要度 3.5
知名度 4.0
ルーツ度 3.5
好み 3.5
総合 3.5

 

 

5位:Nobody Knows You When You’re Down and Out(1929年)

最も代表的な曲のうちの一つ。悲しい男のブルースで邦題は「落ち目になったら知らん顔」。前は何もかもが上手く行っていたのに、世の中が不景気になって金回りも悪くなり、みんなが離れていって、ドツボにはまるといった内容で、日本の憂歌団も独自の解釈でカバーしている。1923年にジミー・コックスというソングライターが書いたヴォードヴィル風の曲で、後にベッシー・スミスが流行らせた。

その後もジャンルを問わずたくさんのミュージシャンがカバーをしてスタンダードナンバーとなった。クラプトンもやっている。

曲の方は、なんとも言えないようなやるせなさが漂っていて、つい酒でも飲みたくなってしまう。

重要度 3.5
知名度 4.0
ルーツ度 3.5
好み 3.5
総合 3.5

 

 

4位:On Revival Day(1930年)

この曲はカッコいい。少しゴスペルっぽいが、ベッシーの歌はメチャクチャ迫力があって、本人もかなりノッているんじゃないかと感じる。さすがの声量に圧倒されそう。軽快なピアノのバッキングにリズミカルなヴォーカルがあまりにもハマっていて最高だ。

初期の曲ではないが、なぜかあんまりこの曲は代表的な曲としては挙がってこない。このヴォーカルはかなり後の女性シンガーには影響を与えていると思うのだが・・・。

重要度 4.0
知名度 2.5
ルーツ度 3.5
好み 4.5
総合 3.5

 

 

3位:Down Hearted Blues(1923年)

1922年の曲で、作者はジャズ・ブルースシンガーのアルバータ・ハンターとジャズ系ピアニストのロビー・オースティン。アメリカの学校における「文化遺産」である、”20世紀の歌”という365曲のリストがあり、この曲は315番目にランキングされているほど、アメリカにとっても代表的な曲となった。加えて”ロックの殿堂”と”グラミー殿堂賞”にも入っているとても有名な曲でもある。

1923年、ベッシー・スミスはこの曲をクラレンス・ウィリアムズのピアノ伴奏で最も早くカバーをしてデビューした。驚くことにリリース後6ヶ月ほどで78万枚を売上げ、いきなりスターダムにのし上がったのである。

これだけの有名な曲でもあり、その後とてもたくさんのミュージシャンがカバーをすることになる。

重要度 4.0
知名度 4.5
ルーツ度 4.0
好み 3.0
総合 4.0

 

 

2位:Back Water Blues(1927年)

ベッシー・スミスが書いた曲でジャズ、ブルースのスタンダードとなった。多くのジャズメンやブルースメンがカヴァーしていてとても有名である。

ミシシッピの大洪水について歌われていて、かなり悲壮感の漂う歌詞となっている。特に1920年代のミシシッピ川周辺に住んでいたアフリカ系アメリカ人にとっては一生忘れられないような洪水となって、皆歌わざるを得なかったのであろう。

ジェームズ・P・ジョンソンのピアノに乗せて、心底魂を揺さぶるような曲だ。

重要度 4.0
知名度 4.0
ルーツ度 4.0
好み 3.5
総合 4.0

 

 

1位:St. Louis Blues(1925年)

ベッシー・スミスと言えばこれ、というくらいに有名な曲。数々のジャズ系ミュージシャンもカバーしているほどのスタンダードである。W.C.ハンディが起譜した。

中でもベッシー・スミスのバージョンは評価が高い。特にこの1925年のバージョンはサッチモと共演していてグラミー賞で殿堂入りした歴史的な曲でもある。

また、この「St. Louis Blues」は1929年に短編映画化され、そこにはベッシーも出演している。

重要度 4.5
知名度 4.5
ルーツ度 4.0
好み 3.5
総合 4.0

 

 


数多いクラシック・ブルースの女性シンガーの中でもベッシー・スミスは最も重要な一人だと思う。

理由はいくつかあるが、大きくはその知名度と後のシンガーたちへの影響力である。

知名度については、確かにタイミングなどラッキーな部分があったかもしれないが、こんなブルースやジャズのヴォーカルであれば、大衆をごまかすことなど出来ない。もちろん実力がなければ誰も評価などしてくれない世界である。しかもこの時代のアフリカ系アメリカ人なのだから、余計にそのあたりはハッキリしているだろう。つまり大衆から支持されていたというのがその答えなのである。

そして地響きのような低い声で歌われるブルース。圧倒的な力を感じる。ビリー・ホリデイやマヘリア・ジャクソン、ジャニス・ジョプリンなどその後にスーパースターとなり、レジェンドと化した伝説的なシンガーたちに強く影響を与えたベッシー・スミス。

1975年にはあのザ・バンドがそのまま”Bessie Smith”という名の曲をリリースして彼女をリスペクトして偲んだ。

もうそれらの事実だけでも、僕なんかが何も言う必要など無いということだ。存在自体がビッグなのであとは彼女が遺した歌声を堪能するだけである。

 

 

その他の曲

・「Summertime」

・「Florida Bound Blues」

・「Careless Love Blues」

・「Lost Your Head Blues」

・「I’m Wild About That Thing」

・「Need a Little Sugar In My Bowl」

 

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