Blind Boy Fuller(ブラインド・ボーイ・フラー)

”イーストコースト・ブルースの雄” ブラインド・ボーイ・フラー(Blind Boy Fuller)

イーストコースト・ブルース(ピードモント・ブルース)の代表的なミュージシャンを挙げるとすると、ブラインド・ブレイク、ブラインド・ウィリー・マクテル、ブラインド・ゲイリー・デイビス、そしてこのブラインド・ボーイ・フラーあたりの名が出てくる。

奇しくも全員がブラインド、つまり盲目である。

中でもブラインド・ブレイクはその中でも最も有名で代表的である。特にラグタイム・ピアノをギターで弾くという斬新な発想とそのギター・テクニックに関しては、カントリー・ブルース全般においても飛び抜けた存在感を放つ。

しかし、ある意味当然ではあるが、その後のブルースマンたちがブラインド・ブレイクの影響を受けないハズがなく、ここで紹介するブラインド・ボーイ・フラーもそんな1人である。戦前ブルースマンで最も売れた1人でもある。

また彼はブラインド・ゲイリー・デイビスの手ほどきも受けており、アパラチアのフォーク系やフィールド・ハラーなどガッツリとルーツ系を消化しているので、ミュージシャンとしての懐はかなり深く、今なお憧れるミュージシャンたちも多い。

弟子と言われたブラウニー・マギーを筆頭に、ローリング・ストーンズやエリック・クラプトンもかなり影響を受けている。

 

圧倒的な経験によって培われた幅広いジャンルのギター・テクニック

ブラインド・ボーイ・フラー。フィールド・ハラーからラグタイムまで器用にこなすギター・テクニシャンである。

1907年にノース・カロライナ州で生まれた。本名はフルトン・アレン。

10代で結婚して、嫁に顔を洗う水に洗濯用のアルカリ液を入れられてから視力が落ちていき、盲目となっていったが、その後21歳で完全に失明している。

当時のアフリカ系アメリカ人に多いが、盲目になると仕事がなくなるため、ミュージシャンで生きていくことを決意した。彼もそんな一人である。ギターは主に写真のようなリゾネーター・ギターを使っていた。


(出典:Alchetron

 

冒頭にも触れたが、ブラインド・ブレイクやブラインド・ゲイリー・デイビスの影響があって、ストリートやハウス・パーティーで慣らした経験もあって、ギターの腕前はかなり高かった。また、1930年頃からブルース・ハープの名手であるソニー・テリーと一緒に活動するようになる。

他にもよくブルースをやっていた仲間に、ウォッシュボード・プレイヤーの”ブル・シティ・レッド”ことジョージ・ワシントンや、”ディッパー・ボーイ”ことフロイド・カウンシル、リチャード・トライスたちがいる。
※ブル・シティとはノースカロライナ州ダーラムという町の別名

本格的なレコーディングは1935年くらいから始めている。それから約6年の間にニューヨークを中心に130曲以上も録った。

 

 

曲紹介

ブラインド・ボーイ・フラーの曲はカントリー・ブルースっぽいのももちろんあるが、ラグタイムやフォークなどの影響もあって、コテコテのミシシッピ・ブルースなどとは違ってわかりやすく、白人層に比較的好まれていた。

リズム感もあって、独特のフラー節(勝手に命名)なるフレーズやコード進行もあって、ノリのいい曲が多いのも特徴である。

歌の内容はホクム的な卑猥なものも多いが、基本的には日常のいろんなことを題材にしているのも人気が高かった理由だろう。

代表曲ランキング

彼も130曲以上のクレジットがあるため、結構選曲には苦労した。フラー好きなあなたの意見もあるだろうが、ここは僕自身の好き勝手なチョイスを赦し願いたい。

というワケで、ここではランキング形式で15曲を選んでみた。特にラグタイム系の曲で似ているものが多く、思わず「一緒やん!」とツッコミたくなるものもあっておもしろい。

15位:I’m A Rattlesnakin’ Daddy(1935年)

まずはこれ。ブラインド・ボーイ・フラーにとって1935年の最初期の音源の一つである。

まあ曲名から察することが出来るが、この曲は完全にホクム・ソングである。ラトルスネイクとはガラガラヘビのことで、”ガラガラヘビの旦那”なんてベタすぎてちょっと恥ずかしいくらいではあるけど。。。

曲はブルース調ではあるが、少しギターが変わっていておもしろい。コード進行はブルースなんだけど、ブギーっぽい跳ね方をしていて独特のノリを出している。

重要度 2.5
知名度 3.0
ルーツ度 3.0
好み 2.5
総合 2.5

 

 

14位:Lost Lover Blues(1940年)

失った恋人についての曲。なんとも物悲しさを感じるような曲調だが、ブルース+フォークソングというようなフラーらしさが出ている。

彼の曲を聴くとバックにパーカッションの音が入っているのがわかると思う。この曲ではおそらく”ブル・シティ・レッド”がウォッシュボードを鳴らしているが、フラーの曲にはこのようにパーカッシブな楽器でリズム感を出しているものが多い。

しかしこれ、晩年の曲で、死ぬ前の悲壮感すら漂っていると感じるのは僕だけだろうか?

重要度 2.5
知名度 2.5
ルーツ度 3.0
好み 3.0
総合 2.5

 

 

13位:Baby You Gotta Change Your Mind(1935年)

これぞまさに”ピードモント節”と呼ばれる黄金のコード進行である。ブラインド・ボーイ・フラーだけでなく、数多くのピードモント・ブルースのスタイルにおいてとてもよく使われるコード進行で、ブルースというよりはやっぱりラグタイムである。

だから音も軽快で明るめだ。フラーも多くの曲で使っていて、この進行を聴くと彼の曲だとわかりやすいのも特徴だ。もちろんブラインド・ブレイクなんかも使っているが、フラーの方がこのイメージは強い。

重要度 3.0
知名度 2.5
ルーツ度 3.0
好み 3.0
総合 3.0

 

 

12位:I Want Some of Your Pie(1939年)

ごきげんなブギー調の1曲だ。ソニー・テリーのブルース・ハープとブル・シティ・レッドのウォッシュボードが絶妙に絡んでいて、ロックンロール(R&R)を思わせるようなノリノリな曲に仕上がっていてカッコいい。

フラーにとって代表的な曲なのでもう少しランキングは上でもいいのだが、いかんせんコレもタイトルがベタベタなホクムなので正直どうかなあと思ってしまった。まあ、そのへんも含めてのルーツミュージックなんだろうけど。

レッド・ツェッペリンの「カスタード・パイ」という曲はここから生まれているようだが、そう、パイっていうのは女性器のことらしい。

まあ曲の良さだけだったら個人的にはかなり上位にランキングされても不思議じゃないのは確かである。

重要度 3.0
知名度 3.0
ルーツ度 3.0
好み 3.5
総合 3.0

 

 

11位:Homesick & Lonesome Blues(1936年)

それにしてもブラインド・ボーイ・フラーの写真もあまり残されていないのか、このサムネイルのカットがやたら多いので、同じようなランキングの見た目になってしまうので、そこはご了承願いたい。

この曲はフラーには珍しく?スライド・ギターを弾いていて、アタマからバシバシ入ってくる。これでもかってぐらいの高音のスライドから始まるイントロ。正直最初聴いた時は「本当にフラーか?」と疑ってしまうほどにブルージーな曲だ。

まあもちろん、当時のブルースマンなワケなので、こういうのも普通にやりこなせるところはさすがである。ロバート・ジョンソンの影響を受けている感じがわかるのもまた時代を感じさせる。

重要度 3.0
知名度 3.0
ルーツ度 3.5
好み 3.5
総合 3.0

 

 

10位:Careless Love(1937年)

さて、「Careless Love」である。W.Cハンディが著作権を持っていた超名曲。なぜかフラーもやっていたので、とりあえずこの曲をランクインさせてみた。

ただ、やっぱりラグタイム調のフィンガーピッキングでやるとフラーの曲になってしまうからおもしろいし、ギター的には勉強にもなる。

このバージョンは少し回転数が遅いのか、声は低いのが少し気になる。探してみたが他のバージョンを見つけられなかった。

重要度 3.0
知名度 4.5
ルーツ度 3.0
好み 2.5
総合 3.0

 

 

9位:I Crave My Pig Meat(1939年)

13位の「Baby You Gotta Change Your Mind」と同様のピードモント黄金コード進行の曲である。もちろんこの曲のウォッシュボードもブル・シティ・レッドでいい味を出している。

フラーのこのタイプの曲はいくつかあって、どう違うのかは曲のキーやタイトル、歌詞の内容ぐらいのもので、ほとんど同じである。この曲はPig Meatというのが典型的に卑猥なホクムなキーワードだ。ちょっと露骨すぎるかな。

重要度 3.0
知名度 3.5
ルーツ度 3.5
好み 3.0
総合 3.0

 

 

8位:Untrue Blues(1937年)

これはブルースである。でもやっぱりコテコテなミシシッピなどどは違って、どことなく爽やかな感じがするのはやはりイーストコーストなブルースだからだろう。

ブラインド・ボーイ・フラーの曲はYouTubeなどでも個人がカヴァーを演奏して上げているものが多く、1人でアコースティックなブルースをやるのに持ってこいなのかもしれない。

ただ、ここではニューオリンズの賑やかなルーツ系のバンドである『Tuba Skinny』がこの曲をやっているので紹介したい。

Tuba Skinnyはさすがにニューオリンズを本拠地としているだけあって、ディキシーランドやラグタイムをメインにブルースなども彼らなりに消化して素晴らしいカヴァーをしている。ぜひとも生で観てみたいバンドだ。

重要度 3.0
知名度 3.0
ルーツ度 3.5
好み 3.5
総合 3.0

 

 

7位:  What’s That Smells Like Fish(1938年)

またまたピードモントの黄金コード進行の曲。曲自体は定型的なフラー節で全体に展開されていく。

エロティックなサムネイルからもわかるようにこの曲もまたホクムソングである。タイトルも卑猥である。”魚のような匂い”・・・どこが?とまあベタなダブルミーニングではあるが、結構有名な曲なので一般の人たちもたくさんカヴァーしているみたいだ。

しかしこの進行のギターを弾かせたら、フラーはピカイチである。

重要度 3.5
知名度 3.5
ルーツ度 3.5
好み 3.0
総合 3.5

 

 

6位:Pistol Slapper Blues(1938年)

ソニー・テリーとブラインド・ボーイ・フラーの素晴らしい絡みが聴ける一曲。

1938年にリリースされているのだが、実はこの年にフラーは嫁さんにピストルをブッ放して刑務所に入れられている。この曲の中にそのような話が出てくるのだが、そのことを歌っているのだろうか?真相はよくわからないが、なんにせよ酒好きで気性が荒かったフラーの一面を見ることができる。

また、後にアイルランド出身のブルース・ロック系ギタリストであるロリー・ギャラガーがカヴァーしたことで有名にもなった。ロリーはフィンガーではなくフラットピックを使って弾き語りをしている。

重要度 3.5
知名度 3.5
ルーツ度 3.5
好み 3.5
総合 3.5

 

 

5位:Get Your Yas Yas Out(1938年)

この曲はアップテンポなフラー節のピードモントスタイルで、ノリがあってアタマから淡々と進んでいく。

もちろん曲自体もいいのだが、何と言ってもローリング・ストーンズが1970年にリリースしたライブ・アルバム『Get Yer Ya-Ya’s Out!’』のネタ元だからどちらかというと曲名の方が独り歩きしてしまった感は否めない。意味もダブルミーニングのようだが、尻軽女を誘っておけよ!みたいな感じなのだろう。

とはいえ、この高速なラグタイムをギターを弾きながら歌うフラーはやはり凄いのである。1分48秒くらいの急な展開も珍しくこの曲のポイントとして挙げておきたい。

重要度 3.5
知名度 4.0
ルーツ度 3.5
好み 3.0
総合 3.5

 

 

4位:Sweet Honey Hole(1937年)

この曲はもう完全に個人的な好みである。この独特のリズムとギター、ウォッシュボードとの融合が何とも言えない感じを醸し出していて最高にカッコいい。

曲調はブルースなんだけど、なんか跳ねていてラグタイムとも言えるし、体が揺さぶられるようなリズムが素晴らしい。この感じ、やっぱりアフリカ系アメリカ人にしか出せないかも・・・。

そしてまたまたタイトルがベタでいやらしい。しかし昔の戦前ブルースマンは本当にエロが好きだなあ。まあ他にやることもないし、お金をかけずに誰でも楽しめるのがエロだった時代というのはわかるけど、僕はもちろんだけど、今どきの若い人たちにもそのパワーを分けてあげて欲しいくらいだ(笑)。ってあんまりこういうことを言うと○○ハラスメントとか言われるんだろうな、、、

とにかくこのエネルギーを感じて欲しいね。

重要度 3.0
知名度 3.0
ルーツ度 3.5
好み 4.5
総合 3.5

 

 

3位:Step It Up And Go(1940年)

まさにロックンロール(R&R)である!

1940年ということで、実際にはまだR&Rというジャンル自体は出てきてはいないが、ギターのフレーズや歌い回しはどう聴いてもR&Rだ。バックにウォッシュボードが入っているが、これがドラムだと想像すれば明らかなことである。

曲の疾走感やR&Rの先駆け的な部分だけを切り取ってもカッコいいので、3位にランクイン。元々は、「Bottle Up and Go」や「Bottle It Up and Go」という曲名でジャグバンドやミシシッピデルタ辺りが発祥のようだが、スタンダードな曲としてカヴァーも多く、このフラーの「Step It Up and Go」の方をカヴァーしているミュージシャンも多い。カントリー系やロック系でもよくやっている有名な曲ではある。

ただ、この頃はもうフラーの体は健康状態がかなり悪かったようで、翌年には亡くなるのであるが。。。

重要度 3.5
知名度 3.5
ルーツ度 3.5
好み 4.0
総合 3.5

 

 

2位:Rag, Mama, Rag(1935年)

1935年の最初期にニューヨークで録音された代表的な曲。この時のメンバーは、ギターで師匠でもあるブラインド・ゲイリー・デイビスとウォッシュボード・プレイヤーのブル・シティ・レッドの3人である。

まさに軽快なラグタイムで基本的に同じパターンが繰り返されるが、スルメのように味のあるアレンジがおもしろい曲だ。特にブル・シティ・レッドのウォッシュボードが秀逸で、曲全体に見事なリズム感を出している。デイビスの方は、実は1950年まではこのフラーとの録音ぐらいしかまともに残されていないようだ。

同名の曲をあのThe Bandもリリースしているが、それはロビー・ロバートソン作詞・作曲の全く別の曲のようである。

重要度 3.5
知名度 3.5
ルーツ度 3.5
好み 4.0
総合 3.5

 

 

1位:Truckin’ My Blues Away(1936年)

ランキング1位はやはりこの曲だろう。ブラインド・ボーイ・フラーにとっては最も代表的な曲だと個人的に思っている。

いわゆる典型的なピードモントブルース進行の曲だけど、この曲の完成度は群を抜いている。特にギターに関してはほぼ100点満点じゃないだろうか?フラーも楽しそうに自信を持って弾いているのが伝わってくるくらいにしっかり弾いているし、実際フレーズの歯切れも良い。

いろんなブルースマンやギタリストがフラーのカバーやコピーをしているが、この曲が最も多いのではないかと思う。敢えて教科書的だと言っても言い過ぎではないだろう。それぐらいに完璧に近い曲である。

もちろん曲自体もノリのいいラグタイムで個人的にも大好きだし、僕自身今もコピーに励んでいる。

また、イーストコーストやピードモント・ブルースを練習する時にも、必ずといっていいくらいに題材にされている曲でもある。

ブラインド・ボーイ・フラー=「Truckin’ My Blues Away」ぐらいの素晴らしい曲である。

重要度 4.0
知名度 4.0
ルーツ度 4.0
好み 4.5
総合 4.0

 

 

 

 


ここまでいろいろと書いてきたが、ブラインド・ボーイ・フラーはイーストコースト・ブルースやピードモント・ブルースを語る上で絶対に外せないミュージシャンであるということはわかってもらえたかと思う。

1941年で他界してしまうが、その33年ほどの短い生涯と時代性、そしてアフリカ系アメリカ人で盲目であったことなど、今の僕らには想像もつかないほどの太く短い人生だったに違いない。彼の歌には卑猥なものや性的なものが多いが、それも時代と若さゆえに本能的に持っていたエネルギーが満ち溢れていた故なのかもしれない。

そんな彼も結局は酒の飲み過ぎで、慢性の腎臓病を患い若くして命を絶ってしまうが、なぜか、どこか彼の曲は明るく楽しく聴こえてくる。

僕自身もギターを弾くので、彼のプレイ(しかも歌いながら)がいかに凄いかはわかる。そして、何よりも弾いていて本当に楽しくなってくるから不思議である。それは本人もきっと楽しんで弾いたからではないかと思うのだ。

フラーの死後、ブラウニー・マギーは「Death of Blind Boy Fuller」というタイトルの曲を追悼でリリースする。

その後もブラインド・ボーイ・フラーのことを尊敬してやまないブルースマンやミュージシャンは後を絶たず、今も戦前ブルースマンのレジェンドとして語り継がれている。

でも、個人的にはもっともっと評価されるべきブルースマンだと思う。

 

 

その他の曲

ブラインド・ボーイ・フラーも曲数が多く、ランキングには入れていないが素晴らしい曲が他にもたくさんあるのでぜひ聴いていただきたい。

 

・Baby I Don’t Have to Worry(1935年)

・Somebody’s been Playing with that Thing(1935年)

・Mama Let Me Lay it on You(1936年)

・Cat Man Blues(1936年)

・Shake that Shimmy(1937年)

・Oh Zee Zas Rag(1937年)

・Screaming And Crying Blues(1938年)

・You’ve Got Something There(1939年)

・No Stranger Now(1940年)

・Must Have Been my Jesus(1940年)

 

 

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