”ジャズの創始者”と呼ばれる バディ・ボールデン(Buddy Bolden)
バディ・ボールデン。1877年ニューオリンズ生まれで、両親の影響もあって厳格なバプティスト派のクリスチャンだった。幼い頃からコルネットを演奏し、『ジャズ』の元祖であると言われている。
しかし実はその確固たる証拠となるものがあるわけではなく、あくまでも当時一緒に活動したバンドメンバーやミュージシャン、ファンや知人などの証言を基にその伝説となっているようなのである。唯一遺されているものは、1枚のバンドメンバーの写真だけで、音源などはこの2021年現在未だに出てきていないのである。
ルイ・アームストロングがこういった内容のことを語っている。
「ジャズを語る上でバディ・ボールデンを忘れるわけにはいかない。彼は1905年にコルネットを引っさげてニューオリンズに迷いこんできた。そして、とんでもないような大きくて力強い音を出してニューオリンズでは知らないものはいないくらいに有名になった。でも精神的な病に冒されてしまってからはもう元に戻ることはなかった。ずっと一匹狼の天才ような存在で先に進みすぎていたんだ。もっといいバンドに恵まれていれば人生が変わっていたかもしれない。」
20世紀の初め頃には、ニューオリンズのストーリー・ビルで演奏するようになったボールデンは、そこの売春宿で流行っていたラグタイムの影響を受ける。
独自の音を追求したボールデンは、西洋風のルールにハマっていたラグタイムに変化を加えた。それは、今までに慣れした親しんできたマーチやブルース、ゴスペルの要素を入れながら、かつ即興演奏するというものだった。
そう、それこそまさしくごった煮のジャズの原型というべきものであった。そしてその頃には、ニューオリンズで最も有名なミュージシャンとなり、”キング=ボールデン”と呼ばれるようになっていた。
しかし、連日連夜の歓楽街での不規則な生活と、ミュージシャンとしてのプレッシャーもあったのであろうか、次第に酒に溺れるようになる。
さらにアルコールだけでは飽き足らず、女や麻薬にも手を出すようになり、精神的にも生活面でもどんどん荒んでいった。元々厳格なクリスチャンだったボールデンはそんな荒んだ自身にも耐えられなかったのかもしれない。より精神状態はひどくなっていったらしい。
そしてついに家族にも愛想を尽かされたボールデンは、警察沙汰になって精神病院へ放り込まれることになったのである。統合失調症であった。
残念ながら、その後数十年もの間、元に戻ることもなく精神病患者の施設で孤独な人生を送ったそうである。
(出典:ウィキペディア)
この写真が唯一残っている1905年頃の「The Bolden Band」のもの。上段左から二人目がバディ・ボールデン。
News
また、こちらはビッグ・ニュースだが、アメリカで2019年にバディ・ボールデンの伝記映画が公開されているようである。その名も『Bolden』。日本では未公開だが、その機会を待ちつつネット上ではいろんな情報が上がっている。サントラ担当はあのウィントン・マルサリスで、今回たくさんのボールデンの曲をやっている。
公開されるまで随分と時間がかかったようだが理由はわからない。とにかく動画配信でもしてくれたら嬉しいのだが・・・。まずは予告編から。
「Bolden – Official Trailer」
詳細はこちらから → 『Bolden』
バディ・ボールデンの曲紹介
上記のように、バディ・ボールデンは音源がないので、ここではいろんなミュージシャンのカバー曲を紹介していきたい。最近のバンドがカバーしているものも多く、良いアレンジが多い。
その中でも素晴らしいのは、最も研究され、忠実に演奏されていると思われる「The Buddy Bolden Legacy Band」の存在である。
「The Buddy Bolden Legacy Band」はイタリアのバンドで、イタリアジャズの重鎮アルベルト・マルナティ(ベーシスト)を中心に2014年に結成された。幸か不幸か曲のアレンジはオーソドックスなニューオリンズジャズタイプが多いが、演奏レベルと録音技術が高いため、かなり聴きやすいし、洗練されている。
また、先ほど書いたように、映画『Bolden』のサントラとしてウィントン・マルサリスによるカバーも素晴らしい。
おそらく噂や証言を聞く限りでは、本物のバディ・ボールデンは結構荒い演奏だったことが想像できるので、その辺りは実際とは異なるかもしれないので、個人の解釈に任せるしかないと思う。
また、そもそも音源がないため、本当にバディ・ボールデンの曲かどうかも定かではなく、僕の知識と情報では限界があるのでご了承願いたい。なのでオリジナル曲のリリース年も不明。したがってランキング形式にもしていない。
「Buddy Bolden Blues/Funky Butt」
いきなりだが、これが最も有名な代表曲かもしれない。The Buddy Bolden Legacy Bandによるカバー。
元々は「Funky Butt」という曲で、非常に下品でみだらな意味合いを含んでおり、後に「Buddy Bolden Blues」という名に変わったと言われている。
この”Funky”という言葉は、クレオールの俗語で”匂い”のことを表していて、どちらかというと汗臭いとか体臭的といった性的な意味があって、転じて後の「ファンキー・ジャズ」や「ファンク」といったジャンルの概念として使われるようになった。
重要度 | 4.0 |
知名度 | 4.0 |
ルーツ度 | 4.0 |
好み | 3.5 |
総合 | 4.0 |
「makin’ runs」
こちらもThe Buddy Bolden Legacy Bandのバージョン。この曲はまさにニューオリンズ、ディキシーランド・ジャズといった感じでとてもノリがあって好き。録音は最近なのでキレイに仕上がっているが、曲中での各パートによるソロ回しもGOOD。
重要度 | 3.5 |
知名度 | 3.0 |
ルーツ度 | 3.5 |
好み | 4.0 |
総合 | 3.5 |
「Careless Love/Sidney Bechet」
この曲も代表曲の中ではかなりのミュージシャンにカバーされている。歌ものもあって、どれを選ぶかかなり迷ったが、今回は2バージョン紹介したい。
1つ目は初期ニューオリンズ・ジャズのテクニシャンであるシドニー・ベシェで、オーソドックスなニューオリンズ・ジャズではあるが、結構即興でクラリネットを吹きまくっている。より原曲に近い感じではないだろうか。
重要度 | 3.5 |
知名度 | 4.0 |
ルーツ度 | 3.5 |
好み | 2.5 |
総合 | 3.5 |
「 Careless Love/Anita Carter 」
もう一つは思わず「こんなバージョンがあったのか!」と個人的に驚いてしまった我が永遠のアイドル”アニタ・カーター”のCareless Loveである。弱冠17歳の時の録音ということで、少し荒削りではあるが相変わらずアニタはいい声である。曲調もカントリーっぽくなっていて、特に違和感もなくジャズとマッチングさせているところもさすがである。
重要度 | 3.0 |
知名度 | 4.0 |
ルーツ度 | 3.0 |
好み | 4.0 |
総合 | 3.5 |
この曲は他にもいっぱいやっていて良いバージョンも多いが、ここではこの2つに留めたい。
「Get Out Of Here」
これはニューオリンズにある独特の風習”ジャズ葬式”のコンピレーション・アルバムからの一曲。
「セカンドライン」と呼ばれる参列におけるブラスバンドとリズム、それに続く人々の列。パレード色の濃いこの音楽もまた、ジャズの土壌になったと言われている。
元々アフリカから持ち込まれたと言われるその風習は、葬儀の際に、行きは棺を墓地まで運ぶが、この時は賛美歌などでしんみりとしているが、埋葬が終わり、帰る時にはたいそう派手に盛り上がって明るく死者をあの世へ送り出すというもの。
なかなか日本人の僕たちには理解しづらいが、そこには民族の風習や、差別・迫害の歴史なども関係しているようで、なんとなく「どうせなら明るく行こうぜ!」みたいな諦めからのポジティブなマインドを感じ取ることができる。
重要度 | 3.5 |
知名度 | 3.5 |
ルーツ度 | 4.0 |
好み | 3.0 |
総合 | 3.5 |
「Basin Street Blues」
映画『Bolden』からのウィントン・マルサリスバージョンである。Basin Streetとは、かつてニューオリンズで栄えた通りのことで、若者の街だったそう。東京で言えばやっぱり原宿や渋谷みたいなところかな。
音は結構ブルース色が濃くて、初期のジャズを感じさせるような曲だ。
重要度 | 3.0 |
知名度 | 3.0 |
ルーツ度 | 3.5 |
好み | 3.5 |
総合 | 3.0 |
「Bucket’s Got a Hole in It」
「バケツの穴」という名で有名なスタンダード曲。元はドイツあたりのヨーロッパの民謡らしい。日本では『みんなのうた』で紹介されたこともあるほどのメジャーな曲である。当然カバーしているミュージシャンも多く、今回のセレクトでも悩んだ。
特にジャズ界ではバディ・ボールデンの代表曲としてよく知られているが、ニューオリンズジャズを得意としているVIPER MAD TRIOという素晴らしい3人組のカバーがあったのでここでは上げておきたい。このバンドについてはあまり情報がないが、ギター、トランペット、ベースのトリオのようだ。オススメ。
重要度 | 3.5 |
知名度 | 4.0 |
ルーツ度 | 3.5 |
好み | 3.5 |
総合 | 3.5 |
「Dinah/Wynton Marsalis」
最後はこの曲「Dinah」だが、作曲のクレジットはバディ・ボールデンではない。アメリカの有名なポピュラーソングである。たくさんのミュージシャンがカバーしていて、ジャズ系も多く、『Bolden』でウィントン・マルサリスがカバーしていていい感じなので入れることにした。ウィントンのソロも素晴らしい。
重要度 | 3.5 |
知名度 | 3.5 |
ルーツ度 | 3.5 |
好み | 3.5 |
総合 | 3.5 |
それからこの曲も2バージョン紹介したい。
「Dinah/Sasha & the Starlight 」
こちらはSasha & the Starlightというヴィンテージなジャズをやっているバンド。ヴォーカルのSasha Masakowski(サーシャ・マサコウスキ)という女性がニューオリンズ生まれらしくとてもキュートにハマっている。ちなみに彼女はジャズ・ギタリストのSteve Masakowski(スティーブ・マサコウスキ)の娘で、まあサラブレッドみたいなものだ。
うーん、カッコいいねぇ。バックの音もかなり僕好みだし、全体のルックスも含めて最近気に入ったバンド。まだメンバーは若そうだけど、すでにみんなシブいなあ。こんなバンドをやってみたいと思う今日この頃である。
重要度 | 3.0 |
知名度 | 2.0 |
ルーツ度 | 3.5 |
好み | 5.0 |
総合 | 3.5 |
というワケで、バディ・ボールデンの軌跡をざっと書いてきたが、やっぱりそもそもの音源が無いというのは、かなり厳しかった。
自分なりにいろいろと調べて曲や動画を紹介してきたが、まだまだ掘り下げて調べていかないとこの”バディ・ボールデン”については克服できないような気がする。うーん、奥が深い。。。