Gus Cannon(ガス・キャノン)

”最強のジャグ・バンドを作った男” ガス・キャノン(Gus Cannon)

ジャグバンド

ジャグバンドとは、元々ジャグ(瓶)に息を吹き込んで低音を出したり、ウォッシュボードやカズー、ハープやウォッシュタブ・ベースなど身の回りにあるようなものを楽器として演奏していた形態のことである。これらにバンジョーやギターなどの弦楽器が加わってブルースカントリージャズなどを演奏するようになった。

こんな感じで吹いている↓


(出典:jugbandjubilee

『ガス・キャノン』。最初にその名前を聞いた時、すぐに「ガン・キャノン!?」と思わず聞き返してしまった。ガン・キャノンとは、僕たちの世代(昭和40年代生まれ)だとほとんどの人が知っているであろう”機動戦士ガンダム”に出てくるモビルスーツ(兵器)の名前だ。

ギャグかと思ってしまうような名前だったが、れっきとした昔のアフリカ系アメリカ人のブルースマンのことだったのである。しかしカッコいい名前だ。本当に武器みたいだし。

変な前置きになってしまったが、もちろんガス・キャノンの音楽、特にブルースやジャグ、スキッフルにおいての影響度はかなり大きい。特に後続のミュージシャンへ与えたものだ。

 

バンジョー・ジョー(Banjo Joe)

ミシシッピ州のレッド・バンクスの奴隷の親の元に生まれたガス・キャノンは10代の頃、ブルースの聖地クラークスデイルへ兄と引っ越し、綿花畑で働くようになった。

そこでフライパンとアライグマの皮、ギターのネックを使って手製のバンジョーを作り、労働の空き時間に音楽を始めた。15歳で本物のバンジョーを手に入れ、その後もいろんな場所を転々として、鉄道やプランテーションで働いた。

それから10年ほど、メディスン・ショーやミンストレル・ショーでバンジョーを弾き、名前も『バンジョー・ジョー』と名乗るようになった。奏法テクニックとして、バンジョーを寝かせてボトルネックのようにも弾いていたらしい。この頃メンフィスに定住するようになった。

1927年、シカゴにてレイスレコードとして有名なパラマウントレコードへ、ブラインド・ブレイクと共にバンジョー・ジョーとして初めてのレコーディングをした。


(出典:oldtimeparty

 

ジャグ・ストンパーズ(Jug Stompers)

1928年、ガス・キャノンは当時メンフィスで活躍していた『メンフィス・ジャグ・バンド』に触発されたビクターレコードからの依頼で、自らもジャグ・ストンパーズというジャグバンドを作った。メンバーは以前から知っていたハープのノア・ルイスとギターのアシュリー・トンプソンだ。その後ホージー・ウッズという強力なヴォーカリストを加えてたくさんのラグタイムやブルースの曲を録音した。

しかし1930年以降、恐慌の影響もあってガス・キャノンは元の労働に戻り、しばらくは細々とたまに音楽をやりながら過ごすことになる。

 

復活劇

1963年、フォーク・グループであるルーフトップ・シンガーズがガス・キャノンの「Walk Right In」をリメイクしたカヴァーをリリースすると、たちまちのうちにヒット曲となり、ビルボード・チャートで2週連続でNo.1をとった。

その頃ガス・キャノンは鉄道の仕事をやっていたところを再発見されたが、経済的にはかなり貧乏であった。

しかしルーフトップ・シンガーズの大ヒットのおかげで、一気に注目を浴びるようになり、なんとまた音楽をリリースできるチャンスが来たのである。

この頃すでに年齢は80歳になっていたが、近所にあったスタックス・レコードのスタジオで録音した。メンバーにかつてのメンフィス・ジャグバンドでリーダーだったジャグブロワーの名手であるウィルシェイド、ウォッシュボードにミルトン・ロビーを迎えて13曲をリリース。

その後1979年に亡くなったが、ガス・キャノンのジャグ・バンドやスキッフルにおけるパイオニアとしての功績や多くのミュージシャンからのリスペクトは多大なものがある。ロックバンドのグレイトフル・デッドも自分たちのルーツとしてガス・キャノンを挙げている。

 

曲紹介

ガス・キャノンは最初にパラマウントに吹き込んだブラインド・ブレイクとのデュオや、ソロの曲、それからジャグ・ストンパーズ、晩年のスタックスで録ったものなどいくつかあって、それぞれに代表的な曲があるので選曲に悩むが、何度も違うバージョンでリリースしているものを中心に、あとは自分の好みを入れて上げようと思う。

代表曲ランキング

9位:Can you Blame The Colored Man(1927年)

これは最初期のブラインド・ブレイクとのパラマウント・セッションから。なんと生涯に36回もレコーディングした曲らしい。

タイトル通り人種差別問題に対する歌で、元々は1901年に時のルーズベルト大統領が、アフリカ系アメリカ人と白人のハーフでスポークスマンであったブッカー・T・ワシントンをホワイトハウスの晩餐に招待して一緒に食事をしたことに対して南部系の白人やメディアが猛反発したことを風刺しているようだ。

公民権運動が始まる前で、まだまだ問答無用な差別が行われていた時代である。この曲も決して明るい曲ではないのだが、バンジョーの音色がそういう暗さをブチのめしてしまうから不思議である。しかし、このやり切れなさはまさにブルースの真骨頂とも言える。

重要度 3.5
知名度 3.0
ルーツ度 3.0
好み 3.0
総合 3.0

 

 

8位:Gonna Raise a Ruckus Tonight(1963年)

『Last Sessions』というスタックスから最後に出したアルバムから1曲。この時点で80歳を超えていた!?らしいから、音を聴けばその凄さがわかる。元メンフィス・ジャグバンドのウィルシェイドをジャグに、ミルトン・ロビーをウォッシュボードに迎えて13曲を収録した。めっちゃ元気である。

ガス・キャノンの陽気なリード・ヴォーカルはもちろん、ミルトン・ロビーのコーラスもいい感じだ。なんかアルコールが入っているようにも聞こえるが、こんな風に楽しそうに音楽ができれば本当にいいよなぁ。

重要度 3.0
知名度 2.0
ルーツ度 3.0
好み 3.5
総合 3.0

 

 

7位:Last Chance Blues(1929年)

ジャグ・ストンパーズの後期の録音から。ノア・ルイスの曲だが、ホーシー・ウッズがメンバーになってヴォーカルが格段に良くなっている。歌だけ聴くとゴスペルチックでビブラートが効いていて声の伸びが凄い。いい声だ。

ガス・キャノンとウッズは別名”ビール・ストリート・ボーイ”とも呼ばれていた。他にも数曲レコーディングしたが、1930年をもって活動をストップする。

重要度 2.5
知名度 2.5
ルーツ度 3.0
好み 3.5
総合 3.0

 

 

6位:Heart Breakin’ Blues(1928年)

個人的に好きな曲。典型的な12小節ブルースで、この曲もノア・ルイスのハープが素晴らしい。ガス・キャノンが吹くジャグも効いている。この曲ではバンジョーはバッキングに徹していてあまり目立ってはいないがそれがまたいい。

重要度 2.5
知名度 2.5
ルーツ度 3.0
好み 4.0
総合 3.0

 

 

5位:Minglewood Blues(1928年)

ジャグ・ストンパーズで最初に録音した曲。代表曲でもある。ノア・ルイスが作った曲で、後にグレイトフル・デッドはアレンジをかなり変えて曲名を拝借した。ミングルウッドとはメンフィスの北の方にあった集落のことらしい。

伝統的なブルースで使われるような歌詞が使い回されて、形を変えながらいろいろカヴァーされているが、冒頭のAメロがアフリカっぽくてインパクトがあって覚えやすい。ハープとバンジョーの2つの楽器で十分にアメリカのルーツミュージック感が出ていて素晴らしい。

動画は当時のアメリカで流行っていた”カエルのフリップ”。これ、意外とアニメにマッチングしていてなかなかおもしろいな。

重要度 3.5
知名度 3.5
ルーツ度 3.5
好み 3.5
総合 3.5

 

 

4位:Big Railroad Blues(1928年)

この曲はグレイトフル・デッドのルーツミュージックの珠玉のカヴァー・アルバムである『The Music Never Stopped:Roots of the Grateful Dead』に収められて有名になった曲。

オリジナルのジャグストンパーズの方はノア・ルイスの秀逸なブルース・ハープが乗っていてカッコいい。よく聴くとバッキングは裏打ちのリズムで入ってて、これは汽車の音なんだろうけど、後に出てくるジャマイカのスカの元のようなリズムになっている。

また、グレイトフル・デッドのバージョンも完全にロックンロールではあるがとてもカッコよく仕上がっている。

重要度 3.5
知名度 3.0
ルーツ度 4.0
好み 3.5
総合 3.5

 

ちなみにグレイトフル・デッドバージョンはこれ。

 

 

3位:Viola Lee Blues(1928年)

これぞジャグバンドの曲といった感じで、それぞれの楽器がよく絡み合っている。いろんなバンドがカヴァーしていて、カズーやフィドル、マンドリン、ウォッシュタブベースといった楽器を使うパターンも多い。イントロから歌メロでもずっと流れるメロディが何回も聴いていると段々とクセになってくる、少しスルメっぽい曲。

重要度 3.5
知名度 3.0
ルーツ度 3.5
好み 3.5
総合 3.5

 

 

2位:Walk Right In (1929年)

最も有名で絶対に外せない曲。このジャグ・ストンパーズのバージョンと復活後の1963年のスタックスバージョンとどちらにするか迷ったが、やはりオリジナルを上げることにした。ガス・キャノンとホーシー・ウッズの共作である。

1962年にルーフトップ・シンガーズがこの曲をカヴァーしてアメリカのビルボード・チャートで2週連続で1位を取って、世界中でも大ヒット曲となった。その頃ガス・キャノンはかなり貧乏だったようで、印税や次のレコーディングのチャンスをもらえるようになり、80歳になってもスタックスからレコードをリリースできたというのは驚くばかりである。晩年ではあったが、人生何があるかわからないものである。

重要度 4.0
知名度 4.0
ルーツ度 3.0
好み 3.5
総合 3.5

 

 

1位:Poor Boy, Long Ways From Home(1927年)

1位はこれでパラマウント・セッションから。このときの名義はバンジョー・ジョーで出している。曲自体は古いブルースのトラッドで、他にもたくさんのミュージシャンがカヴァーしている。この1年ほど前にボー・ウィービル・ジャクソンが録音していてそれが一番早いらしい。

この頃ガス・キャノンはブラインド・ブレイクと親交があったらしく、互いによく一緒にセッションなんかをやっていたようだ。

ブレイクのギタープレイはすでに有名になっていて、引く手あまたのギタリストだったみたいだが、この音を聴くとそれ以上にガスのバンジョーが前に出ているのがわかる。なんと言ってもバンジョーを寝かせてスライド奏法をしており、この曲では全開で弾いていてとてもカッコいい。

バンジョーという楽器自体はとても明るい音色なので、一聴すると楽しそうに聞こえるが、曲のタイトルからも辛さが伝わってくる。さらにアフリカ系アメリカ人がここまでバンジョーをメインに弾いている人も少ないのでガス・キャノンは非常に貴重なミュージシャンである。

重要度 3.5
知名度 3.0
ルーツ度 3.5
好み 4.0
総合 3.5

 

 


元々バンジョーという楽器はアフリカ系アメリカ人がアフリカから伝来させたものであって、彼らが弾くのはごく普通のことなのに、白人のオールドタイムやヒリビリー系のミュージシャンたちがこぞって弾くようになった経緯もあって、珍しいという逆転現象が起きてしまっている。

今はと言えば、どちらかというとカントリーやブルーグラス、アイリッシュ系のミュージシャンが使うのが普通になっていて、それはそれで音楽の様々な歴史の変遷の中で成り立ってきているものだし、僕自身もとても好きなことなので否定のしようはない。

だからこそ、このガス・キャノンのようなバンジョー弾きはとても貴重だし、気になる存在なのである。

”ジャグ・バンドの顔”として、一時代を築いたリーダーであったガス・キャノン。60年代にイギリスで起きた「スキッフル・ムーブメント」のリスペクトの対象として彼の名が挙がる。

身の回りのものを使ってブルースを演奏した彼らジャグ・バンドの超自然力は、おそらくいつの時代も少なからず人間が求める癒やしのサウンドの対象になっているものだと思う。世の中がデジタル化すればするほど、彼らのような音楽は貴重になっていく。

だからいつになっても影響を受けるミュージシャンたちが跡を絶たないのではないだろうか。

 

その他の曲

・「Money Never Runs Out」

・「Bring It With You When You Come」

・「Cairo Rag」

・「Feather Bed」

・「Jazz Gypsy Blues」

・「Come on Down to My House」

 

最新情報をチェックしよう!
NO IMAGE
CTR IMG