絶対的な”ラグタイム王” スコット・ジョプリン(Scott Joplin)
ラグタイムという音楽は決してジャズとは言えない。なぜなら、即興演奏を重視するジャズに対して、ラグタイムは譜面にそって、出来上がった曲を演奏するものだからである。
さらに、メインはピアノ伴奏なので、どちらかというとクラシックに近い印象を受けるかもしれない。
しかし、多くの演者はアフリカ系アメリカ人であり、そのリズムにおいては右手でシンコペーションを多用し、左手でマーチのリズムという独特のズレたリズム感を生み出した。そのリズム感こそが後のジャズに多大な影響を及ぼしたのである。
ジャズにおいての、その影響力のことを考えるとラグタイムを外すことはできない。とはいえ、活動していたミュージシャンも少ないため、一つのジャンルとして起こすほどでもない。
というわけで、ルーツミュージックの中で最もジャズに近いものでもあるため、ジャンルとしては『ジャズ』の中に取り入れることにした。
ラグタイムには三大巨頭というのが存在し、そのうちの一人がスコット・ジョプリンである。というより”ラグタイム=スコット・ジョプリン”と言ってもいいくらいである。
テキサス生まれのスコット・ジョプリンは、19世紀後半からミズーリ州のセントルイスやセダリアへ移り住み、中西部をラグタイムの本場として活動し、その後全米にムーブメントを起こした偉大なミュージシャンである。
ジョプリンは、クラシックを学んで、西洋音楽とアフリカ音楽の融合を探求していたようで、そのことがラグタイムを生み出したと言われている。
スコット・ジョプリンの主な代表曲
スコット・ジョプリンの曲にはとてつもなく有名な「Maple Leaf Rag」や「The Entertainer」があって、ほとんどそれらを解説するだけで終わってしまうといっても言い過ぎではないと思う。
また、スコット・ジョプリンの活躍した年代が古く、本人自身の音源も無いためここでも全7曲のみの紹介になる。だからランキング形式にするのはやめておこうと思う。
ただ、そうは言ってもどれも歴史的には重要な曲ばかりである。
「Original Rags(1899年)」
1899年のリリース曲で、スコット・ジョプリンが亡くなるのが1917年。ジャズの最初のレコードが録音されたのがオリジナル・ディキシーランド・ジャズバンドで1917年ということは、実際のスコット自身の音源はほとんど無いと考えるのが妥当であろう。
とはいえ、世の中には今やスコット・ジョプリンのレコードやCD、配信などかなり充実している。
理由は、1973年公開のアメリカ映画『スティング』で使われたスコット・ジョプリンの「ジ・エンターテイナー」によって、ラグタイムの見直しとブームが一気に来たからと言われている。
つまり、たくさんのピアニストを筆頭に世の中でラグタイムが流行りだし、当然かのようにレコーディングもされたからである。半世紀以上も前のラグタイムの音源や楽譜を探求し、再度楽譜を起こして1970年代以降にたくさんのミュージシャンによって記録されたものや、ピアノロールという紙の鍵盤譜による音源が出回った結果なのだと思う。
よって、ここでは動画を含めた曲を紹介していくが、実際の音は近年のものだという認識でお願いしたい。
しかしこのサムネイル・・・タイガーウッズに似てない?
重要度 | 3.0 |
知名度 | 3.5 |
ルーツ度 | 3.5 |
好み | 2.5 |
総合 | 3.0 |
「Maple Leaf Rag(1899年)」
スコット・ジョプリンのいや、ラグタイムの最重要曲と言ってもいいかもしれない。
キャリアの初期に作られたこの曲は、最もヒットしたスコットの出世作である。先述の映画『スティング』でもBGMとして使われている。
曲を聴くと、途中でクラシックのような展開があって、西洋音楽とアフリカ音楽とがぶつかっているのがわかって面白い。世界中のあらゆる国で演奏され、ラグタイムにとって、まさに代表曲といえる。
重要度 | 5.0 |
知名度 | 4.5 |
ルーツ度 | 4.0 |
好み | 3.0 |
総合 | 4.0 |
「Sunflower Slow Drag(1901年)」
この曲はラグタイム作曲家のスコット・ヘイデンとスコット・ジョプリンの共作。実はジョプリンはヘイデンの義理の姉と結婚することになるのだが、その時の心情が込められていると言われている。
また、この曲はタイトルにもあるように「スロー・ドラッグ」と言われる上品でゆったりとしたダンスに合わせて作ったタイプのラグタイムである。
重要度 | 3.5 |
知名度 | 3.5 |
ルーツ度 | 3.5 |
好み | 3.0 |
総合 | 3.5 |
「Easy Winners(1901年)」
この曲もスコット・ジョプリンの中では有名な曲である。日本の飲料系のCMでも使われているので聴かれたことがあるかもしれない。
重要度 | 3.0 |
知名度 | 4.0 |
ルーツ度 | 3.0 |
好み | 2.5 |
総合 | 3.0 |
「The Entertainer(1902年)」
言わずとしれた代表曲で、おそらくラグタイムで最も有名な曲。日本人でもこの曲を聴いたことのない人はほとんどいないだろう。CMやテレビ番組等あらゆるところで使われている。
先程も書いたが、この曲は映画『スティング』のメインテーマとして使われた。1902年に作られて、ずーっと無名なままの曲であったが、『スティング』が第46回のアカデミー賞で7部門を受賞したモンスタームービーとなったことから、1970年代に一気に世界中に広がった。
重要度 | 4.0 |
知名度 | 5.0 |
ルーツ度 | 3.0 |
好み | 3.5 |
総合 | 4.0 |
「Pineapple Rag(1908年)」
これも代表曲。車のCMでも使われ、色んな所で聴くことができる。ラグタイムってピアノ曲が多くてほとんど歌も入っていないためか、一般的にはBGMで使うのにもってこいなのだろう。しかしスコット・ジョプリンの才能もさることながら、その跳ねた高揚感のあるリズムが心をウキウキさせるような音なので、特にCMには合うのかもしれない。
重要度 | 4.0 |
知名度 | 4.5 |
ルーツ度 | 3.0 |
好み | 3.0 |
総合 | 3.5 |
「Solace – A Mexican Serenade(1909年)」
この曲は落ち着いた感じのバラード調であるが、よく聴くとクラシック的なメロディと「ハバネラ」というキューバ音楽のリズムが入っていてなんとも興味深い。スコット・ジョプリンがまさに西洋とアフリカ系の音楽の融合を試みているのがよくわかる名曲である。
重要度 | 3.5 |
知名度 | 3.0 |
ルーツ度 | 3.5 |
好み | 2.0 |
総合 | 3.0 |
ここに上げただけでなく、スコット・ジョプリンも50曲以上作曲しているので、もちろん他にもたくさんあるが、特に有名な代表曲はこんなところだろう。また気が向けば他の曲も随時加えていこうと思う。
ところでスコット・ジョプリンの映画というと、大抵は『スティング』を思い起こすと思うが、実は伝記映画があって、1977年に『スコット・ジョプリン』というそのままのタイトルでアメリカで作られている。
最後に、その中の1シーンがYouTubeにアップされているので紹介しておきたい。ピアノバトルの模様だが、英語がわからないとしても非常に面白いので必見である。
「Scott Joplin Movie Dueling Pianos Competition Scene(1977年)」
とても面白そうなのだが、現在動画配信等はなく、DVDを購入する必要がありそうだ。
ラグタイムという音楽は、ジャズの基盤になったと言われているが、これらのスコット・ジョプリンの曲を聴くとそれがよくわかる。ジャズに比べると幾分クラシックの影響が見られる。
また、ジャズの方がより雑多な人種と音楽のクロスオーバーによって生まれてきたと言える。マーチやブルースなどの影響が強く感じられるのはそのためだ。
つまりジャズはラグタイムより自由度があって、即興性が強かったのではないかと思う。